夏が近づく気配がする。
夕暮れの風は優しく肌を包み、もう寒さは感じない。
隣を歩く彼は、「油断して体冷やしちゃ駄目! 
めーちゃんはいつも薄着過ぎるんだから」と口煩いけれど。

夾竹桃のような濃いピンクの夕焼けを見ながら、カイトと二人で家路を辿る。
彼の両手には、中身がぎっしり詰まった大きな買い物袋が二つ。
私の手にはインテリアのカタログ雑誌が一冊だけ。
片方持つと言ったけれど、「これは僕の役目」と譲らない。
重くないわけがないのだけれど、当の本人は妙に浮かれていて、
荷物を抱えたままスキップでもしそうな勢いだった。

---無理もない。この夏には新しい家族がやってくるのだから。

少しでも頼もしい存在に! が最近の合い言葉らしいカイトは、私から荷物を奪い家事を奪い、
もうすぐやってくる子の為の家具選びにも余念がない。
配達されるのを待つ時間すらもどかしいらしく、店で買った物を直接担いで持ち帰る始末だ。
この間の休みには、鼻歌を歌いながらベッドを組み立てていたっけ。
なんだか子供みたい。
そう言うと「だって待ち遠しいんだよ」と相好を崩して。

「帰ったらご飯にして、その後はカーテン選びしようね」

私が持っているカタログに目をやりながらカイトが言う。

「その雑誌、壁紙やじゅうたんも載ってたよね。良いのがあれば、そっちも新調しちゃおうか?」

それがいいよ、そうしようよ。
顔を輝かせる彼に、私は溜息をついた。

「もう部屋には家具が入ってるでしょ。壁紙やじゅうたんまで選び直すなら、
ベッドやら何やら、一旦運び出さなきゃいけないじゃない」
「僕がやるよ、もちろん」
「効率が悪いって言うか、行き当たりばったりね」
「だって思いついたのが今なんだから仕方ない」
「ほんと、後先考えずに突っ走るんだから」

---さすが私と結婚するだけのことはあるわ。

目を逸らし気味にそう言うと、照れくさそうに笑ったカイトは、荷物を無理矢理片手に持ち直して。

私のお腹のふくらみを、優しい手つきでそっと撫でた。

 

 
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