<家族の食卓・メイコ不在ver.>


どうにも刺々しい。
一家団欒の場であるダイニングルームにあるまじき雰囲気の悪さに、
カイトは思わず溜息を吐く。
耳聡い弟妹達がその吐息を聞き漏らす筈もなく、揃って視線を兄へと向けた。
三対の瞳がありありと物語っている---姉はまだ帰って来ないのか、と。

その不満を解消する術はない。カイトは肩を竦めて首を横に振った。
溜息が今度は三つ。
それでも食事を再開してくれるだけマシだ。
あまり美味しそうな平らげ方ではないが。

つやつや光る白米に、焼き鮭とだし巻き卵。
味噌汁の豆腐が少し不揃いだが、これは目を瞑ってもらおう。

せめてもの慰めにと殊更丁寧に作った朝食を、レンは戦闘用レーションのようにがつがつ貪り、リンはファストフードのように食い散らかし、ミクは牛乳をかけただけのオートミールでも咀嚼するかのように、しょげかえった様子で黙々と口に運んでいる。

メイコの不在に気もそぞろなのはカイトも同様だったが、保護者としての立場上、
気落ちしてばかりもいられない。
彼女が仕事を終えて帰ってくるまで、子供達の世話を一手に引き受けなければならないのだ。
とはいえ、そう難しいことではない。
起こし、食事を作り、寝かしつける。その点だけ押さえていれば良い。
ミク、リン、レンもまた姉に心配をかけまいと、いつも以上に家事を手伝ってくれた。
大変に模範的な留守番姿勢だと思う。

しかし、どんなに良い子達であろうと、寂しさを我慢するにも限界がある。
仕事が数日長引きそうだと彼女から連絡が入ったのは昨日のこと。
本来の予定通りであれば、今朝は一週間ぶりのメイコの手料理にありつける筈だったのに。
姉を出迎え、良い子で留守を守っていたことを訴え、そして頭を撫でて貰うことを楽しみにしていた
子供達の意気消沈ぶりは酷かった。
時間通り起きてダイニングルームに集まってくれたのは奇跡に近い。

メイコの帰宅まであと数日。
具体的には何日かかるのだろう。
皆が、そして何よりカイト自身が、耐えきれれば良いのだけれど。

 
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