差し出された器を見て、カイトは目を見開いた。
咄嗟に言葉が出ないままメイコの手元へと視線を移す。
彼女が自分用にと用意したのは、練乳がかかっているだけの苺のかき氷。
カイトの前に置かれた氷菓は、深緑色のシロップの他に餡や白玉が添えられた、
やたらと豪華な代物であるのに。

「メイコ、これは本当に“かき氷”?」
「そうよ。宇治金時っていうの」

隣に腰掛けたメイコが、縁側から降ろした足を愉しげに揺らして笑う。
その表情は一言で形容するなら「してやったり」、だろうか。

かき氷は何味がいい、と訊かれたのは昨日のことだ。
彼女が列挙するシロップの中からカイトが選んだのは「抹茶」だった。
最近とみに暑くなってきたせいで、メイコに茶を点てて貰う機会が減ったこともあっての選択だったのだが、どうやらその辺りの思考を先読みされてしまったらしい。

世話焼きなメイコ。
カイトを特別扱いするのが大好きなメイコ。

彼がこの家にやって来てから半年、教えることも世話を焼く理由も減る一方だった彼女にとって、久しぶりにやってきた「特別扱い」の機会である。
思惑が当たって嬉しそうだったメイコが、ふと小首を傾げた。
赤いかき氷を口に運んでいた手を止め、カイトの顔を見上げる。

「食べないの? ひょっとして気に入らなかった?」

しゅんとしたメイコに「そんなことないよ」と首を振り、カイトは匙を手にとった。
二つ添えられた白玉の片方を掬う。
滑らかな表面に溶けかかった氷をまとったそれを、
ひょいとメイコの持つ器へと移した。

「お裾分け」

目を瞬かせる彼女に、今度はカイトがしてやったりと微笑む番だった。
美味しい物は独り占めするより、分け合った方が良いにきまっている。
---大切な人となら尚更だ。

「半分こね」

嬉しそうに笑うメイコの顔を見届けて、カイトも今度こそかき氷を口に入れた。
ほろりと解れていく甘さは幸せの味がした。

 
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