『おかわり!』と双子の声がユニゾンした。

「はい、ちょっと待っててね」

勢い良く突き出されたガラスの器を嬉しそうに受け取ったメイコが立ち上がる。
おかわりを頼んだのだからその場で待っていても構わない筈なのだが、
リンとレンはメイコの後について台所へと向かった。
開け放された戸の向こうで、二杯目をよそうメイコの手元をウキウキと覗き込んでいる二人の姿が、ミクからも見てとれた。

「二人とも食べるの速い……!」

まだ半分ほど中身が残っている器を手にミクは呻く。
その姿がおかしかったのか、座卓の斜向かいに座ったカイトが匙を片手に笑った。
彼が食べているのも、ミク達と同じ白玉あんみつだ。
つぶあんとシロップの甘さが果物の酸味と程良く調和し、良く冷えた白玉がつるりと喉を滑る、それはそれは美味しい逸品だった。

「まだ沢山あるよ。ゆっくり食べるといい」
「それはそうなんですけど」

味わって食べなければ勿体ない。
分かってはいるのだが、ミクが羨ましいと思うのは、あんみつそのものよりも、
それをメイコによそって貰うという行為の方だった。
リンとレンがわざわざ彼女にくっついて行った本当の理由もそこにある。
ミク達はつまるところ、メイコに構って貰うのが好きなのだ。
メイコがミク達を可愛がるのが好きなのと同じように。

「カイトさんはいいんですか? 
あんみつ、あの二人に食べ尽くされちゃいますよ?」

カイトの器の中身は殆ど減っていない。彼もまた甘味好きだった筈なのだが。
もしかして自分達に遠慮してくれているのだろうか。
そう考えて訊いてみれば、「それもあるけどね」と曖昧な答えが返ってきた。

「なんですか、それも、って。他にも理由が?」
「……僕は昨日のうちに、一番美味しいところを貰ったから」
「ええ?」

均一に混ぜてある筈のあんみつに「一番美味しいところ」なんてあるだろうか。
首を捻るミクの背後を、二杯目のあんみつを抱えた双子がバタバタと駆け抜けた。
縁側に出た二人は様々な色の寒天を太陽にかざしては、
透き通る光を確かめつつ口に放り込んでいる。

「ただ食べる以外にも、楽しみがあるものよね」

同じく戻ってきたメイコが、ミクの器にさくらんぼを入れながら言った。

「さくらんぼはそれが最後なの。良かったらどうぞ」
「やったぁ! ありがとうございます」

メイコの言う通り、特別に分けて貰った赤い実は、
味がどうこうという以上に格別だった。

「ねぇメイコさん、このあんみつって昨日作ったんですか?」
「いいえ、作ったのは今日よ。餡と白玉は昨日練ったものだけど」
「じゃあカイトさんは一足先につまみ食いでもしたんですね」

そうでしょ、と詰め寄るミクに、カイトは「まぁ近いかな」と答える。
隣では何故かメイコが口元を押さえている。

「ずるいなぁ。確かにつまみ食いって妙に美味しいですけどね」

頷きながらミクが呟くと、二人は揃って顔を見合わせ、そしてふわりと微笑んだ。

 
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