「白玉あんみつの一番美味しいところって、結局なんなの?」

リンにそう問われ、メイコは思わず麦茶を注いでいた手を止めた。
彼女の隣に座ったレンもまた、興味しんしんといった様子でこちらを見つめている。

「二人とも、さっきの話、聞いてたの」
「聞こえてたよ。ねぇレン」
「耳には自信あるしな」

頷き合う双子の頭を撫でて、改めてグラスを差し出す。
氷塊がからりと涼しげな音をたてる麦茶は、
甘さで一杯になった口の中をさっぱりと潤してくれる筈だ。
競うようにしてあんみつをかき込んでいたこの二人は特に水分を欲していたらしく、一気にあおって「美味しい!」と声をあげた。
二杯目をついでやりながら、屋内に目を遣る。
後片付けを引き受けてくれたミクは、台所で水音を響かせている。
カイトはと言えば、麦茶を片手にこちらに背を向け素知らぬ顔だ。
彼もまた「耳には自信がある」存在である以上、
こちらの会話が聞こえていない筈はないのだが。

「あんみつの一番美味しいところ、ねぇ」

わざとらしく呟くと広い背中が僅かに揺れた。
やはりと言うべきか、気になってはいるようだ。

新市街の子供達には内緒にしていることが一つ。
メイコが白玉あんみつを作る時、その前日のおやつは必ずかき氷だということ。
手作りの餡も白玉も、作りたてのとっておきはカイトの宇治金時の為にある。
彼に初めてかき氷を作った夏以来、それは変わらない。
驚かせたくて、喜んで欲しくて、
半ば思考を誘導するようにして振る舞った宇治金時。
分けて貰った白玉に、結局はメイコの方が嬉しい思いをしたことを覚えている。
あれから季節は巡り、何度目かの夏がやって来たけれど、
かき氷を作る楽しみは増すばかりだった。
特に冷水でしめた白玉団子を掬い上げる瞬間の昂揚感といったらない。
何故なら、二つ添えた白玉の片方は、カイトの手で譲って貰えるからだ。
たくさん作った白玉のうち、たった二つ。それを半分こ。
口に出して約束した訳ではない、二人の間の暗黙の了解だった。
美味しくない訳がない。

---だから。

「ごめんなさいね。内緒なの」

ええ、と不満げな声が重なる。
申し訳ないと思ったけれど、これだけは譲れない。
秘密にしていなければ、きっと魔法が解けてしまうから。

inserted by FC2 system