藍色の翼の鳥が運んできたその手紙を、ミクは自室の窓辺で受け取った。
秋桜が描かれた葛花色の和紙の上、墨痕鮮やかに文字が躍る。
崩しの洒脱さと読みやすさの絶妙なバランスを備えた筆遣いは、旧市街に住む女性の物だった。

---秋の長雨を一緒に楽しみたいと思ってお便りしました。
今夜は三人で、うちに泊まりにいらっしゃいな。
カイトと一緒に待っています。

その傍らには、もうすぐ日が落ちるから道中気をつけてという言葉が、丁寧な筆致で添えてある。
たったそれだけの文章に心が弾むのは、降り続く雨のせいで湿って重い空気の中に、墨が爽やかに薫ったから。
そして、遊びに来るよう誘って貰えたから。
何よりも、自分達のことを思ってくれる存在が嬉しいから。
お誘い嬉しいです、すぐに伺いますと走り書いて、青い鳥に渡す。
力強い羽ばたきは灰色の街並みを鮮やかに切り裂き、瞬く間に見えなくなった。
窓の外は、薄鼠色の雲がそろそろ色を濃くしようとしている。
気の早い双子が夕食の準備を始めてしまう前にと、ミクは廊下を駆けてリビングへと飛び込んだ。

「リンちゃん、レン君、支度して! メイコさんとカイトさんのお家に行くよ!」

雨の風景 〜共鳴の庭〜


霧雨と夕闇の紗に包まれた庭先の石灯籠に、ぽぅ、と幽けく灯りが点る。
揺らめく炎に照らされたメイコの横顔を、背後から差し掛けられた和傘が守っていた。

「マッチを擦るくらい、一人でも平気よ? そこまで湿気たりしないから」

後ろを振り仰いで彼女は言う。
傘を持つ手はそのままに、カイトは頭を振ってみせた。
その青味がかった髪は、ごく細かい雨粒を含んで僅かに濡れている。
九月の半ばという今の時分、宵の口の霧雨はむしろ心地よい。
これが一週間早ければ残暑が湿気を煩わしくさせ、逆に遅ければ肌寒さを覚えていた筈だ。
産毛を撫でるように漂う水の気配は優しい。
メイコも同様に感じているのだろう、自分自身は雨に身を晒したままの彼をそれ以上は咎めず、ただ有り難うと言って微笑んだ。
縁側まで戻って来ると、先に上がったカイトの手がごく自然に伸べられて白い手を引く。
軒下の吊り灯籠に火を入れる間にも、二人はずっと身を寄せ合っていた。

「ミクちゃん、リンちゃん、お待たせ。お風呂はどうだった?」

話しかけられて、え、あ、と上擦った声があがる。二人の姿にすっかり見とれていたのだ。
映画のスクリーンの向こう側から声をかけられたような気分だった。
ミクは慌てて「良いお湯でした!」と返事をし、未だ惚けた表情のままのリンの手を引っ張った。

「今はレン君が入っているのよね?」
「はい。すぐに出るって言ってましたけど」
「じゃあ、先にお布団の準備をしておきましょうか。ミクちゃん、書斎の隣の部屋にリンちゃんを連れていってあげて。私もすぐに行くから」

数本溜まった燃えさしの始末をするためにメイコは台所へ向かい、カイトは傘を玄関に置きに行った。
二人の姿が視界から消えた途端、傍らのリンが大袈裟な音をたてて息を吐く。

「・・・・・・っはぁぁぁぁぁ」
「リンちゃん、あの位で当てられてたら身が保たないよ」
「保たないの?」
「序の口だもん、あんなの」
「あれで序の口なんだ・・・・・・!」

よく磨かれた縁側を歩きながら、リンは口をへの字に曲げ、碧い瞳に納得いかなげな色を浮かべた。
あの二人絡みの会話をする時、彼女はよくこの表情になる。
カイトさんとメイコさんは「そういう関係」じゃないらしいよと告げた時も。
漆喰塀やタール塗りの黒壁が立ち並ぶ町の外れ、見慣れた椿の生け垣の前で、出迎えの為に一つの傘に入った彼らの姿を見た時も。
揃って「こんばんは」と挨拶をすると、手燭を掲げたメイコは「急なお誘いでごめんなさいね」と言い、カイトは門扉を開けて三人を招き入れてくれた。
玄関に用意された傘立てに傘をしまいながら、リンは白いリボンをぴょこりと揺らして首を捻っていた。

ねぇミクちゃん、あれで恋人同士じゃないなら、あの二人って一体何なんだろ?

その疑問はかねてからミクが抱いていたものと同じだった。
メイコがミク達にばかり構うことが気になって仕方がなかったと、カイトが打ち明けてくれたのは二週間ほど前のことだ。

神経が灼き切れそうだった、あれを嫉妬というんだろうね。

自分のような子供に対して、何一つ誤魔化すことなく、彼は語ってくれた。
二人の邪魔になっているのではないかという懸念が裏付けされてしまったわけだが、これからは違うのだと言って貰えたのだ。
ミクは嬉しかった。同時に不思議に思った。
彼ら二人は、ミク達が想像していたような間柄ではないのだという。
あんなにも仲が良くて、同じ屋根の下で暮らしていて。
少なくともカイトの方は、ミクにすら敵愾心を燃やすほど、メイコに執着していて。

「そういえば、寝室も一緒らしいよ。メイコさんが言ってた」
「えええええ!? あたしだってレンとは別々の部屋なのに!」
「驚くよねぇ……。私もびっくりしたもん。メイコさんは、どうして私が絶句してるのか理解できてないみたいだったけど」

彼女には、別々の部屋で寝起きするという選択肢が頭になかったらしい。

だって一つの部屋で寝たら、眠るまでお話できるし、朝も一緒に起きられるじゃない?

そう言って、不思議そうに首を傾げていた。

「一緒の寝室かぁ……こっちの部屋?」
「ううん、そこは書斎。ってリンちゃん! 勝手に覗いちゃ駄目だよ!」
「平気だよ〜、入る訳じゃないし。部屋の中、殆ど何もないし」

リンの言う通り、襖の向こうには文机が一つと、奥行きの浅い床の間を利用して作り付けられた本棚があるだけだった。
机の上には硯が置かれ、洗って墨を落とした筆が立てかけられている。
きっと、ミクへの手紙を書くのに使った筆なのだろう。

「私達の部屋とは大違いだよね」
「うん。もしメイコちゃん達がうちに来ることがあっても、あたしの部屋は見せられないなぁ」
「でも、二人にとってはこれで十分なんだよね」

何もないように見える部屋で、綺麗な紙に文字をしたため、文机に向かって本を読む。
メイコは琴も嗜むらしいが、それを爪弾くのもこの場所なのかもしれない。
紡がれる音に、カイトは静かに耳を傾けているのかもしれない。
穏やかで慎ましい暮らし。
ミク達には見えない何かが、二人の空間には満ちているのだろうか。
ミクはそっと襖を閉めた。
みだりに踏み込んではいけない、と思う。
メイコが開き、カイトも許してくれた心は、だからこそ尊重するべきだ。
そう思ったミクの耳を、軽い足音が叩く。

「お待たせ。さぁ、布団を敷いてしまいましょう」

手縫いの枕カバーを持って、メイコが部屋に入ってきた。
柔らかな布はそれぞれ緑と黄と橙色をしている。

「浴衣とお揃いだね!」

嬉しそうにリンがはしゃぐ。
風呂上がりに用意された浴衣は、メイコが仕立ててくれた物だった。

「気に入って貰えたかしら?」
「すっごく!」
「私も嬉しいです。メイコさんがいつも着物を着てるのを見て、少し憧れてたから」
「あら、じゃあ今度は振り袖を用意しましょうか」
「え、いいんですか?」
「あたしも! あたしも着てみたいな、メイコちゃん!」
「勿論よ。見立ては任せてね」

そんな会話をしながら、あっと言う間に寝床の準備は整った。

「これで良し、と。レン君がお風呂から出たら、お夕飯にしましょうね。食事が終わる頃には髪も乾くでしょうし、庭の準備も整うわ」
「庭の準備って何ですか? 私達もお手伝いします」

メイコが頭の中で組み立てている段取りの全体像は、ミクにはまだ見えない。
そもそも、今夜の趣旨すら訊いていないのだ。

「庭の準備はね、私達じゃなくて雨がしてくれているのよ」

瞳を黒蜜のように甘く艶めかせてメイコは言う。
雨が準備? と顔を見合わせたミクとリンの髪を撫で、居間へ戻るよう促した。

「まだ内緒。すぐに分かるから、楽しみにしていて」



夕食を終えた頃には、辺りはすっかり闇に包まれていた。
ほんの僅かに強さを増した雨音が、さぁさぁと降り注ぐ。
軒の灯籠は、この集まりのためだけにカイトが吊してくれたらしい。
等間隔で並ぶ灯火を頼りに、寝室の辺りへと皆で移動する。
カイトは一人庭に出て、石灯籠の脇に設えられたつくばいの様子を何やら確かめていた。
戻ってくると、彼はメイコに「良い頃合いだよ」と告げる。
メイコは静かに頷き、ミク達に腰を下ろすよう勧めた。

「なになに? 何が始まるの?」
「お化けとか出んの? 肝試し?」

興味深々といった様子で瞳を輝かせる双子の頭を撫で、メイコはそっと唇に指を当てた。

「もっと良いものよ。静かにしていた方がいいのは、お化けが出るのを待つのと一緒かもしれないけれどね」

悪戯っぽく笑った彼女は、ねぇ? と斜め上へと視線を向けた。同意を求められたカイトもまた、ゆったりと微笑み首を縦に振る。
顔を見合わせた双子は、両手の人差し指を口の前で交差させた。お口にチャックのバツ印。
思わず吹き出してしまったミクも、その笑い声を最後に口を閉ざして耳を澄ませる。
濡れ縁から投げ出した足をぶらつかせながら腰掛けているリンとレン。
それより少し下がった場所に陣取ったミク。
メイコはミクの隣に座り、カイトはその向こうで柱に身を凭れかけさせている。
こんな風に、一ヶ所で身を寄せあうのは今日が初めてだな、とミクは思った。
ついさっき五人で囲んだ食卓も、賑やかでとても楽しかった。
これからは、こんな風に過ごすのが普通になるのだろうか。
なんの気兼ねもなく距離を詰めてもいいのだろうか。

特別な夜だと思っていたけれど、こんな日が早く当たり前になればいい---。

ミクの思考を読んだかのように、メイコが口を開いた。

「もうすぐよ」

え、と驚いたミクの耳に、ころころと何かが転がるような音が届く。
続いて陶器が触れ合うような高い音。更には反響して豊かに籠もる響き。
思わず息を呑む。それは双子も同様で、足をぶらつかせるどころか身じろぎすら出来ずに、その音の連なりに聴き入っているようだった。

「これはね、水琴窟と言うのよ」

驚きが一段落した頃を見計らい、メイコが静かに説明を始めた。

「あのつくばいの手水鉢に水が溜まって、溢れて雫が滴るでしょう。そうしたらね、周りに敷き詰められた小石を伝って、雫が地面の中に埋められた瓶に落ちるの。その音が反響して、こんな風に素敵な音を生むのよ」
「そういえばメイコさん、音が大きいから鹿おどしは庭に置かないんだって、前に言ってましたよね」

何度目かにこの家を訪れた時、そんな話をした覚えがある。
古い日本家屋の庭にはつきものであるはずの添水が、何故かこの家には存在しない。
それを不思議に思ったミクの質問に対して、音が響き過ぎて、とメイコは答えたのだった。

「ええ、私達の耳には過ぎた音なのよね。綺麗なんだけど、まるで突き刺さるように感じてしまう……その点、この水琴窟ならそこまで大きな音はしないし、鳴るのも雨の日に限られるから」

確かに、耳に届く水音はごくささやかだった。
雨量がもう少し強ければ、空間を埋め尽くす雨音にかき消されてしまうだろう。
泊まりに来るよう急に誘われたのも頷ける。
今日のような霧雨の降る静かな夜は、この水琴窟の音を楽しむ絶好の、そして数少ない好機なのだ。

「お誘い、本当にありがとうございます」

嬉しくて嬉しくて、心の底から言ったミクに、メイコは微笑みを返してくれた。
その細められた目が、傍らの青年に向けられる。
視線を受けた彼が頷くのと同時に、微かな灯りに朱く染まる唇から、高く澄んだ音がこぼれた。
間を置かず、カイトの低い声が豊かに広がり、メイコの伸びやかな声を追う。
即座に意図を悟った双子が、跳ねるように弾むように、楽しげな音を響かせた。
水琴窟の音を、それぞれの声で再現しようというのだ。
初めてだ。
皆で声を合わせるのも。
こんな風にして声を使い、音を楽しむのも。
胸が一杯になったミクの顔を、メイコとカイトが優しく見詰める。
高く紅。低く藍。その声の重なりは、こちらに向けて差し伸べられた二つの手のようだった。
ミクが追いつき、その手をとるのを待ってくれている。
駆け寄るように歌声を添わせた。
飛び込んだ緑が先を往く二色を再び繋ぎ、新たな彩りを生む。
黄色い声が、今は隠れている月と星の代わりに煌めきを弾けさせて。
共鳴は夜の庭を満たし、慈雨のように沁みていった。



「良く寝てるわね」

寝具と一体化するかと思うほど完全に脱力した体が二つ。
縁側で眠り込んでしまったリンとレンをここまで運んでくれたのはカイトだった。その彼は、吊り灯籠の火を消しに行っている。
仲良く並んで夢を見ている双子に布団を掛けながら、メイコは楽しげに笑っていた。
彼女の面倒見の良さは、初対面の時から健在だ。
最近では更に磨きがかかった気さえする。---それは、カイトとの関係がぎくしゃくしていた一因であるようにも思えたが。

「ミクちゃん、明日はお寝坊できる? 早めに起きなきゃ駄目かしら」
「えっと、私もリンちゃん達もお昼から仕事があるから……九時までにはお暇しようと思います」
「朝ご飯はうちで食べて行ってね。何時くらいに用意しましょうか」

問われて考え込む。布団と朝食の後片付けは絶対に自分達でやりたい。その時間を加味してタイムリミットから逆算すると。

「七時! 七時でお願いします。六時には起きて、私もお手伝いしたいです!」
「起きられそう?」

床の間に置かれた時計を見遣りながらメイコが訊ねる。
もう日付が変わろうとする時間だった。
少し厳しい時間設定かもしれない。

「が、頑張ります」

拳を握ってみせたミクの頭を、優しい手が撫でてくれた。
それだけで、頭の芯がふわりと蕩けるように感じる。
忍び寄る眠気を気遣うような声で、良いことを教えましょうかとメイコが言う。

「良いこと?」
「おまじない。枕を三回叩いて、何時に起こして下さいって言うの。そうしたら、願った時間通りに起きられるのよ」

少なくとも私には効き目があったわ。
そう呟いた彼女は、打ち明け話をするように言葉を続けた。

「あのね、このおまじないの事で、私はカイトと喧嘩したことがあるのよ」
「けん……っ!?」

張り上げかけた声を慌てて押さえ込む。
普段の彼らの様子からは想像もつかない言葉に、眠気がどこかに消し飛んでしまった。
その様子がおかしかったのか、それとも驚きに目が冴えたミクを申し訳なく思ったのか、メイコは苦笑して子細を話し始めた。

枕を三度叩くおまじないは、裏山の梟から教えて貰ったらしい。
同じ山に住む狐を通して梟と仲良くなった彼女は、その教えをすぐに実行し、効き目があることを喜んだのだそうだ。
やがて早起きの習慣が体に染み着き、おまじないの存在を忘れかけていた頃、カイトと暮らし始めることになった。

「彼が弓の練習のために早起きするようになって、このおまじないのことを思い出して。何気なく教えたら、カイトは迷信じゃないのかなって言ったの」

---でも、私はおまじないの通りに起きられたわよ?
---それはメイコが規則正しい生活をしていたせいだろう。
---夜更かししたこともあったのに。
---偶然だと思うよ。

そんなやりとりをした後、お互いに何を言って良いか分からなくなったのだとメイコは言う。

「そんな事は初めてだったの。カイトとは勿論、他の誰とも意見が食い違ったことなんか無かった。食い違うまで意見を言い合った経験がそもそも無いんだってことに気づいて愕然としたわ」

これが喧嘩というものかとメイコは思い、仲直りの仕方を知らないことに不安を覚えた。
カイトは怒っている風ではなかったが、やはり彼も、生まれてしまった蟠りをどう解消していいのか戸惑っている様子だった。
先輩でもあるのだから、メイコの方から歩み寄らなければ。
そう思うのだが、どうやって歩み寄ればいいのか分からない---。

「暫くそんな風にうじうじしていたらね、ある日カイトが沢山の石と大きな瓶を運んで来て、庭を掘り返し始めたの」
「石と大きな瓶って、まさか」
「そう。あの水琴窟よ。あれはカイトが作ってくれたの」

思い出すように瞳を閉じて、メイコは囁いた。
カイトは、水琴窟の作り方を、裏山の梟に訊いたらしい。
手水鉢から掬った水を注いで音を確かめながら、カイトは言った。

「良い音だね、梟に教えて貰った通りだよ。だから、あのおまじないもきっと本当に効くんだろうね、って」

ふふ、と笑ったメイコの視線が庭へと向けられる。
優しい眼差しの先には、その時のカイトの姿があるのだろうとミクは思った。

「悩むより、歩み寄る方が早かったわ。カイトはそうしてくれた。あの時に思ったの。私もカイトに対して、そして他の誰かに対して、同じ事が出来たらいいなって。喧嘩はそれ一度きり。貴重な体験よね」
「……それって喧嘩ですか?」
「喧嘩なの。少なくとも私はそう思ったもの。良いのよ、仲直りできたんだから、喧嘩だって嬉しいことの一つだわ」

喧嘩すら出来ないより、ずっと良いの。
メイコはそう言い、「さぁ、もうおやすみなさい」と、もう一度ミクの頭を撫でてくれた。

メイコが立ち去り、室内には時計の音と双子の寝息だけが響く。
静けさをかき分けるようにして聴覚を研ぎ澄ませると、かすかに水琴窟の調べが耳に届いた。
障子の下部四分の一を占めるガラスの覗き窓を通して、縁側の方を伺う。
少し離れた場所に、戻って来たらしいカイトと、当たり前のように隣に収まるメイコの姿があった。
自然と消えるのを待つ庭の石灯籠の灯りに、一対の男女の姿が滲んで映る。
雨雲が去り、水琴窟が鳴り止むまで、あの二人は肩を寄せ合っているのかもしれない。
いや、雨が上がってからも、ずっと。

(水琴窟は、メイコさんとカイトさんの絆の象徴なんだわ)

霧雨が降る度に、あの二人は特別な水音を楽しみ、自分達が重ねてきた日々に思いを馳せてきたのだろう。
今日はそこにミク達三人も加わった。
二人が、招き入れてくれた。

メイコに教えて貰った通り、枕を三回叩いて、六時に起こして下さいと口に出してみる。
リンとレンにも、いつか教えてあげよう。
このおまじないのこと。
そして、この家に住む二人のこと。

はっきりとした名前は未だ付いていないけれど、カイトとメイコの間には、確かに響き合う何かがあるよ、と。

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