せかいでいちばんかしこいむすめ(後編)


娘は王様のお后になり、お城で暮らすようになりましたが、王様が喜んでいられたのは僅かな間だけでした。
賢い者にうってつけだろうと国の財政を任せた途端、彼女はその仕事にかかりきりになってしまったのです。
これでは花の世話を理由に誘いを断られ続けていた頃とかわりません。
慌ててお役目を解こうとすると、大臣達から猛反対され、諦めざるを得なくなりました。

そんなある日、お城に緑の髪と緑の瞳の少女がやって来て、王様に訴えかけました。
彼女の育てているネギ畑の一部が、お城に住む双子のロードローラーによって滅茶苦茶になってしまったと言うのです。

「あの双子は、轢き潰したネギ畑にロードローラーを置きっぱなしです。せめてあれを退けるよう、王様から仰って下さい」

お后に構ってもらえず不機嫌だった王様は、面倒臭そうに答えました。

「双子の物が置いてあるのなら、そこはもう双子の土地だ」

あまりに理不尽な扱いを受けた少女は、今度はお后様の所へと行きました。

「お后様、どうか力を貸して頂けないでしょうか」

お后様は少女の頭を撫でて言いました。

「双子が迷惑をかけてごめんなさい。あの二人は私が叱っておくわ。それに、王様にも考えを改めて頂かなくてはね」

お后様は双子にロードローラーを片付けさせ、皆でネギ畑を元通りにすると、少女の飼っていた猫を預かってお城へと戻りました。



その夜、王様が自分の部屋へ戻ると、お后様が椅子に腰掛けていました。
彼女の膝の上にいる白い猫はなんだろうと王様が思っていると、お后様はこう言いました。

「王様、このお城は今日からあの少女の物です」

それは一体どういうことかと王様は尋ねました。

「この猫はあの少女の飼い猫です。彼女のものがあるのなら、その場所もまた彼女のもの。王様が仰った通りです」

王様は溜息をつき、お后様に向かって言いました。

「僕が間違っていたことは認めよう。けれど君も何だ。どうして僕以外の人間ばかり大切にする」
「私はあなたのことを一番大切に思っています」
「信じられないな。自由にしてあげるから、双子と一緒にあの小さな家に帰るといい」

離縁を言い渡されても慌てる素振りすらないお后様に、王様は何か一つだけこの城から持って行くことを許しました。
そう言えばお后様も少しは悩むかと思ったのですが、彼女はすぐに頷き、「たった一つだけなら、それは最初から決まっています」と言いました。
お后様は嬉しそうな顔で王様に抱きついてキスをすると、お別れのために盃を運ばせました。
王様が盃の中身を全て飲み干すと、彼はすぐに深い眠りに落ちました。
盃には眠り薬が入っていたのです。
娘は大きなリネンで王様を包むと、召使いに運ばせて馬車に乗せ、双子とともに元の家へと戻りました。



王様が目を覚ますと、そこは小さなベッドの上でした。
ここは何処だと戸惑う王様に、娘が語りかけました。

「愛しい王様。あなたは何か一つだけお城から持ち出して良いと仰いました。ですから、あなたをお連れしたのです」

王様は娘をお城へ連れて帰ると、もう一度彼女と結婚しました。
そして、末永く幸せに暮らしたということです。

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